企業の人権侵害事例を学ぶ: グローバル企業の課題とリスク

グローバル企業における人権侵害の事例として、大手アパレル企業が製造の委託をしていた工場で労働者が低賃金かつ劣悪な労働条件で働かされていたことが発覚しました。

労働者の大半が10代から20代の女性であり、管理者による暴行や性的な嫌がらせが横行していました。

この問題が明るみに出ると、大手アパレル企業の製品に対する不買運動が世界各地で起き、会社の売上が減少しました。

米国系アパレル企業の委託先であるインドネシアやベトナムの工場で児童労働や性的暴行が行われていたことが発覚し、不買運動が広がった。

この人権侵害による不買運動の売上高へのインパクトを測るために、同社の売上高が人権侵害の発覚時と同程度にまで戻るまでの期間の「仮に不買運動が発生していなかった場合の売上高予測値」から、人権侵害によるインパクトを算出した。

その結果、米国系アパレル企業が人権侵害によって失った売上高は約12,180百万ドル、日本円で約1兆3,764億円に及ぶことが分かった。

企業に求められる人権対応の取り組みとしては、「人権方針の策定」「人権デュー・ディリジェンスの実施」「是正・救済」の3つがあります。

これらの取り組みは、企業が人権リスクを起こさないようにするために重要です。

企業の社会的責任が注目される中で、人権リスクへの対応とコミットメントが求められています。

オウルズコンサルティンググループは、人権デュー・ディリジェンス対応や人権方針策定などの支援実績を有しており、ご関心のある方はお問い合わせフォームよりぜひお問い合わせください。

人権は世界標準であり、サステナビリティの中核テーマであり、企業の経営課題でもある。

サプライチェーンで起きる「人間の権利の侵害」はすべて企業にとって人権問題に当たる。

企業は調達・生産現場での強制労働や児童労働、長時間労働や劣悪な労働環境だけでなく、環境破壊や地域住民の権利侵害にも責任を持つ。

金融機関も企業への投資や融資において人権問題に関与する責任がある。

PRI（責任投資原則）は毎年の総会で人権を重要なテーマとして取り上げている。

欧州を中心に進む「ビジネスと人権」関連の法制化や日本政府によるガイドラインの発表などを受け、近年、企業による人権尊重の取り組みが加速しています。

本コラムでは、事業に関わる人権を守るために企業が注意すべき「人権リスク」とは何か、過去の企業事例なども交えながら解説します。

企業が注意すべき主要な人権リスクとしては、例えば下記のようなものが挙げられます。

これらはあくまでも一例であり、人権リスクはビジネスにおける様々な場面に潜んでいます。

自社のどのような事業活動が人権リスクに繋がるのか、日頃から多角的に考えてみる必要があります。

企業がその活動を通じて、負の影響を引き起こしている要因があります。

また、企業がその活動を通じて、直接または間接的に負の影響を助長していることもあります。

さらに、企業がその取引関係によって、事業・製品・サービスが負の影響と直接関連している場合もあります。

例えば、A社が製品の製造を委託しているB工場で長時間労働が起きていた場合、A社がB工場と共に対応すべき人権リスクとなりえます。

また、原料の産地などサプライチェーン上で強制労働や児童労働が用いられていた場合、その事実を知っていながら取引を続けた企業は、「負の影響を助長している」として責任を問われることになるでしょう。

日本企業のサプライチェーン上での人権尊重への対応に注目が集まっている中、人権侵害が企業経営に与えるインパクトは売上への影響、コストへの影響、投資への影響の3つに分けられます。

売上へのインパクトとしては、不買運動や工場停止による機会損失があります。

また、ブランド毀損も長期的な影響を与える可能性があります。

コストへのインパクトとしては、罰金や補償コストが発生する場合があります。

投資へのインパクトとしては、ESG投資の拡大により、人権侵害の発覚や人権尊重への対応の不足が投資判断のマイナス材料となることがあります。

アパレル業界では、劣悪な労働環境による事故が発生し、多くの犠牲者が出ました。

この事故を教訓に、アパレル業界に対して企業の責任の追及とサプライチェーンの透明化を要求するキャンペーンが展開されました。

特に事故後の対応が遅れた一部ブランドに対しては、より一層厳しい批判が集まりました。

世界各国では毎年4月にアパレル業界のサプライチェーンの透明化を求めるキャンペーン等が開催されており、日本にも広まっています。

人権デューデリジェンスとは、事業活動の中で人権を侵害するような行為がないか調査して対応することであり、サスティナブルの課題として大企業を中心に取り組みが進んでいます。

日本でも法制化される可能性があり、重要な概念となっています。

人権最高責任者の配置や取締役会・上級管理職レベルでの責任の取り組みが行われています。

調査によると、人権デューデリジェンスを最も改善した企業のうち、75%が人権に対する責任を上級レベルで担い、人権に関する実施・意思決定にリソースと専門知識を多く割り当てていることがわかりました。

この結果は、より効果的な人権デューデリジェンスを実施するためには、人権リスクに対する責任を取締役会および上級管理職のレベルにまで引き上げる必要性を示唆しています。

実際に、ステークホルダーとの対話を積極的に行い、説明責任を果たした企業は、ユニリーバとザ・ハーシー・カンパニーの2社のみだった。

ステークホルダーの声を人権DDに反映させなければ、企業はステークホルダーの抱えるニーズに合わせて人権問題に対処することは難しい。

しかし、ステークホルダーとの対話を具体的にどう進めていくかは議論が続いている。

まとめ本記事で紹介した人権DDの海外事例は最高レベルのため、自社で取り組むのは難しいと感じるかもしれない。

近年、国際的に企業の人権尊重を促す政策が講じられており、企業には、その事業規模を問わず、取引先を含めた人権尊重の状況について、リスクを特定し、これを解消するための実効的な取り組みを進めていくことが求められています。

我が国においても、「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」が策定され、また、公共調達の判断材料の一部に企業の人権対応を含めるとされています。

企業にとって最も身近な人権は、その雇用する従業員の人権です。

つまり、すべての企業がその従業員の人権について考えなければならず、「ビジネスと人権」で求められていることは、まさに人事部の業務と直結しているのです。