芸術と社会の役割：芸術家が担う社会的責務とその多面的な価値

現代の芸術家は、歴史的財産としての観光効果だけでなく、社会においても重要な役割を果たしています。

アーティスト達は未来へのアプローチを行ない、過去を継承しながら新しい価値観を生み出しています。

美術は学問であり、学術的な価値を持たない作品は美術とは呼ばれません。

コンテンポラリー系の芸術家は、研究者として新しい作品形態と価値観を生み出しています。

新型コロナウイルスの感染拡大により、世界中の都市において文化芸術の役割が再考されている。

人々の生活に根差してきた文化芸術の重要性が問われる中、持続可能な都市において不可欠な多面的価値を持つことが示唆されている。

文化芸術は、人々の気づきを促し、ビジネス社会において重視されるデザイン思考やアート思考が、経営や教育に応用されている。

また、文化芸術は創造性やデザインが経済成長やイノベーションに重要な役割を果たすとされ、クリエイティブ産業政策として機能している。

さらに、デジタル化が進む社会においても、文化芸術は人々の感性を育む力を持っている。

社会的包摂（Social Inclusion）とは、福祉国家の基本的な諸制度から漏れた人々に社会参加を促し、生活困難を連鎖させないための考え方です。

1970年代以降の低成長期において、失業や不安定雇用の拡大により「社会的排除」が拡大し、これに対応するために生まれた概念です。

世界的な取り組みとして、国連総会で採択された持続可能な開発目標（SDGs）も「社会的包摂」を重視しています。

本寄稿では、芸術の視点から社会的包摂について言及します。

2017年に改正された文化芸術基本法により、文化芸術と福祉や教育等との連携が強調され、文化芸術の多様な価値を活かして文化芸術立国の実現を目指す計画が策定された。

この改正により、地域の包摂的環境の推進について具体的な施策が記載され、地域における多様な文化芸術を振興し、地域の包摂的環境の推進による文化芸術の社会的価値の醸成が図られることが期待されている。

文化と芸術は地域の共通の価値観に基づいて営まれる生活様式であり、社会的包摂とは、社会的に弱い立場に置かれている人たちを排除するのではなく、包摂する社会を築いていこうという考え方である。

芸術は、その制作過程で、心を開放したり、常識的な枠組みを破壊したりして、新しい視点を持つ・広げることや、人と人のコミュニケーションを深める力がある。

これまで排除されていたマイノリティの人たちが芸術表現などの活動を通して、自信を獲得し、能力を発揮できるようになり、マジョリティの人たちの意識変化を促すことや、多様な人たちがともに創造活動を行うことで相互の違いを認め合う関係を築くことができると考えられている。

地域の公共圏形成において、地域の人々が公立文化施設を拠点とした活動を通じて、積極的なコミュニケーションができる文化交流の場としての環境づくりが期待される。

市民が芸術を評価や鑑賞の対象とするだけでなく、プロセスとして捉え、一人ひとりの日常生活において芸術活動が浸透していき、多様な人々が違いを認めあう生活様式としての「文化」の創出に繋げることが重要です。

これにより、社会的弱い立場にいる人が社会から排除されたり、孤立したりするのではなく、共に支え合う社会を作ることができます。

活動運営側は、ビジョンやロードマップを明文化し、広く共有することも重要であり、創作者同士が直接的に対話できる機会を設け、関係性の変化やお互いの気づきを得られるよう努める必要があります。

また、多様な人々との新たなつながりにより、新しい価値の存在を訴えかけることができ、地域コミュニティの新たな居場所となる可能性もあります。